「世の中は 起きて箱して(糞して)寝て食って 後は死ぬを待つばかりなり」
京都・嵯峨で生まれ、第100代天皇・後小松天皇の落胤と伝えられる室町時代の僧『一休宗純(いっきゅうそうじゅん)』(1394 – 1481)
6歳で京都の『臨済宗 安国寺』にて出家し『周建』と名付けられ、15歳の頃には詩人として洛中(京の都内)で評判となりました。17歳で西金寺に入り謙翁宗為(けんおうそうい)に師事し戒名を『宗純』と改めます。1414年の20歳の頃に慕っていた謙翁禅師が亡くなると、来世の再会を果たそうと瀬田川で入水自殺を図ってしまいます。未遂に終わった宗純は、近江堅田『祥瑞寺(しょうずいじ)』の華叟宗曇(かそうそうどん)の弟子になります。
世俗化した僧界から絶つ道を選ぶ祥瑞寺は、たいへん貧しく宗純は雛人形の衣装を作る内職や香袋や丸薬を作り京へ売りに行くなどをして寺を支えます。
24歳の頃に、琵琶法師の語る『平家物語』を聞いた宗純は、次の歌を詠み華叟禅師から『一休』の号を授かります。
「有漏路(うろぢ)より無漏路(むろぢ)へ帰る 一休み 雨ふらば降れ 風ふかば吹け」
そして26歳の頃、坐禅をする中で一休宗純は、闇夜のカラスの鳴き声を聞き、悟りの境地(大悟)に達します。
しかしながら、悟りを得たとする華叟禅師の印可を一休は拒否し寺を離れ、ありのままの姿で生きる道を選び、男色はもとより肉を食し女を抱き酒を飲むなど仏教界の戒律に背き風狂の人となります。
伝えられる奇行に、薄汚い格好で朱色の鞘を腰に差したり、正月に骸骨の杖で挨拶回りをしたりしています。その意図することは、当時の京は戦乱や飢餓が蔓延し混乱した時代であり、民衆を救うことよりも欲に走る僧が多く、そうした形骸化し腐敗した仏教界への抵抗をその行動で表し皮肉ったと言われています。
『酬恩庵(しゅうおんあん)』は、元は鎌倉時代に臨済宗の僧『南浦紹明(なんぽしょうみょう)』が開いた『妙勝寺』ですが、後醍醐天皇が企てた鎌倉幕府討伐『元弘の乱』(1331-1334)の戦火により衰退していたのを1456年に一休宗純が宗祖の遺風を慕い再興し、師恩に酬いる意味で『酬恩庵』と命名しました。
「一代風流之美人 艶歌清宴曲尤新 口吟腸断花顔顰 天宝海棠森樹春」
一休宗純は76歳の頃に、盲目の森侍者(しんじしゃ)と出会い『酬恩庵』で同棲生活を始め、50歳の年齢差がある二人の関係を『狂雲集』で好色な漢詩を詠んでいます。
破天荒に生きた一休宗純にもその死は訪れます、その死の前年に等身大の坐像を弟子に彫らせ、そこに自分の髪と髭を植え付けました。
1481年、マラリアに罹り88歳で没する今際の言葉は『死にとうない』で、最後まで悟りを得た僧にあるまじき最も人間臭い言葉を残します。
数百年経った現在でもその坐像を『酬恩庵 一休寺』で見ることができます。
部屋の奥、少し遠目に座しているのですが、その姿はまだ血が通い息があるかのように静かに瞑想をしています。残念ながら写真に収めることはできないのですが、人間『一休宗純』を体現したその姿を拝めればきっと目に心に焼き付くことでしょう。
天皇の落胤である一休宗純の墓がある『宗純王廟』は、宮内庁の管轄下にあり見ることはできず、彼の庶民に立った生き方と出生を考えるととても皮肉なことかなと感じます。
『一休寺納豆』は、応仁の乱によって飢えに困った人々を救うため一休宗純がその製法を伝授し数百年伝えられた保存食としての納豆です。
一粒いただけるのですが、期待通り、もしくは期待に反して、やっぱり美味しくはない。
巷の納豆のように粘りがあるわけでなく、旨味の代わりに塩っぱく酸味がありものすごく臭い。
しかしながら、心を落ち着かせ噛み込んでいけば深みのある味とも言えるかも…しれない。
もう一つ一休宗純由来と言われる『善哉(ぜんざい)』があります。
出雲発祥とも言われる『ぜんざい』でもありますが、一休宗純が小豆汁をいただいた際に、「善哉此汁(善き哉この汁)」と言ったことによる始まりもあるそうです。
せっかくなので黒豆でつくった一休寺『冷し善哉』を抹茶とともに頂きます。
この『冷し善哉』には、『一休寺納豆』がしっかりと善哉の上にのっています。
善哉は今まで食べた中でも上位の美味しさです。
さらに一休寺納豆を混ぜながら食べるとその塩味と酸味が他の甘みと合わさり絶品で唯一の善哉が生まれます。この善哉を食べるためにもう一度訪れたいと感じるほどの衝撃です。
石畳の参道と周りを囲む緑の葉々と一面の苔。
加賀藩主『前田利常』により1650年に再建された住職の接客や仏事が行われる『方丈』。
白砂が敷かれソテツが植えられ気持ちのよい陽の光と風が吹き込む『方丈庭園 南庭』。
一休禅師の坐像を背に、世俗に染まった身と心を一休寺の美しい空間にしばし委ねると、何処からとなく懐かしい台詞(せりふ)が聞こえてきそうです。
「はぁ~い。慌てない慌てない。一休み一休み…。」